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店を出て少ししたところで、透さんが立ち止まる。
「悪い、夏月。急用。」
「へ?」
透さんは俺を道端にポイッと投げ捨て、どこかへ行ってしまった。
「えええ……。」
マジかぁ…。
俺今日割と飲んじゃった…。
強い方だけど、変な飲み方したから頭いてぇ……。
立ち上がるのもしんどくて、頭を押さえたまま、そこで目を瞑る。
「あの…、大丈夫ですか……?」
声をかけられ、耳が過剰に反応する。
条件反射のように顔を上げた。
キャップにサングラスしてるけど、でも間違いない。
この声、この顔、この背格好…!!
絶対に綾くん!!!!
「あの……?」
「ファンです!!!俺と付き合ってください!!!」
「へ…?」
「あ。」
み、み、み、ミスったぁぁああああ!!!
つい、つい酔っぱらいすぎて、変なこと口走った。
ファーストインプレッション最悪じゃん!
「ご、ごめんなさい…!ミスった…、じゃなくて…!あの…その…っ」
「ふふっ!」
「え?」
綾くんはくすくす笑っている。
引かれて……ない?
「君、デビューしてからずっと応援してくれてる俺のファンの子だよね?」
「っ!!!はい!!!」
「今日も来てくれてありがとう。いつも励みになってます。」
あ、綾くん…!!
いきなり告白してきたヤバいファンにまで、この神対応。
天使通り越して女神なのでは…?
「歩けますか?タクシー捕まえられるところまでご一緒します。」
「い、いえ!そんなっ…、お、お構いなく…っ」
「いいのいいの。俺本当に元気もらってるんですよ。こんなことがお礼になるか分からないですけど。」
お礼どころじゃない。
圧倒的ファンサを受けて、俺は今卒倒しそうです。
でも本人がお礼したいと思ってるなら…。
つけ込んでいいか…?
図々しくも…、少し………。
「綾くん…」
「なんですか?」
「あの…、一緒に珈琲飲みませんか…?」
少しだけ。
あと少しだけでいいから、推しと一緒にいたい。
俺はネオン街にちょこんと佇む、小さな喫茶店を指差した。
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