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カランコロン…♪ 入口の鐘が鳴り、俺たちの入店を知らせる。 まさかオッケーしてもらえると思わなかった…。 一番隅の、人目につきづらい席に案内してもらう。 「珈琲二つ、一つはブラックで、もう一つは角砂糖二つにシロップ一つ、あとミルク多めに入れてください。それとショートケーキを。」 「かしこまりました。」 マスターが注文を取って向こうに行ったのを確認し、俺は目の前を凝視する。 綾くんだ…。 正真正銘、本物の……。 「すごいね。俺の珈琲の好み、知ってるんだ?」 「もちろんです!!」 「雑誌の端の方にチラッと載ってただけだった気がするんだけどな…。」 ファンを甘くみないでください、綾くん。 小さかろうが綾くんが載ってる雑誌は全て購入して、全部切り抜いて保存してます。 甘いものが好きなことも、ここのショートケーキが美味いこともリサーチ済みです。 「実はさっきね、圭くんと一緒にいたんだけど、君の連れに連れていかれちゃってさ…。」 「えっ?!」 「圭くんも満更でもなさそうな感じだったし、もう大人だから後のことは二人に任せるけど…。」 透さん……、そんな誘拐みたいな……。 あの人は我が道をゆく人だから、仕方ないか…。 「ふふっ、なんか男同士でもこんなことあるんだね。」 「綾くんは…、どう思いますか……?男同士…」 「ん〜。何も知らないのに否定するのは違うかなって思ってる。」 綾くん、優しい…。 そんなに優しかったら、俺みたいな悪い男につけ込まれるのに…。 俺は綾くんの腕を引いて、テーブル越しにキスをした。 「え………?」 「どうでしたか?」 「ど、どうでしたって…。」 綾くんは瞳を揺らしながら、戸惑いを隠せない様子だった。 そりゃそうだよな。 いきなりファンに、しかも男にキスなんてされたら。 「突然ごめんなさい。でも、どうしようもなく好きなんです、綾くんのこと。」 「……っ、その、ファンとしてじゃ…?」 「違います。本当に好きなんです。」 「っ…!!」 綾くん、困惑してる。 でも一度吐いてしまうと止まらなくて、綾くんの手を両手で握りしめて、矢継ぎ早に話す。 「デビューしたときからずっと好きです。コンサートも全部行ってます。番組もラジオも必ず聞いてます。」 「それは……、ありがとう……。」 「ファンとしても大好きですけど、正直性的な目で見てることも確かです。」 「っ?!」 「綾くんの声で抜いたこともあるし、綾くんの写真集オカズにしてることがほとんどです。」 「な、何言ってるの?!」 ギュッと手を握る力を強めると、綾くんは逃げようとした。 「お待たせしました。」 タイミングが良いのか悪いのか、珈琲とケーキが運ばれてきて、一度俺も冷静になった。

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