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第2話
「しーちゃん! どうしたの? 部活? って、あれ、美術部って夏休みの活動してたっけ?」
「生徒会と文化祭の打ち合わせ。てか、陽介 いいのかよ、ランニング抜けちゃって」
「あーそっか、しーちゃん部長だもんね。でも俺も一応キャプテンだし、ランニング、正門で終了だったから大丈夫」
言われてみればあの耳障りなかけ声は止んで、正門をくぐった野球部員たちは水飲み場や日陰へと足を向けている。
「ねぇ、俺さ、あと片付けして解散だから、一緒に帰ろうよ」
目深にかぶっていた帽子を取れば、無駄な肉のついていないシャープな輪郭が現れる。頭ひとつ分の身長差がある幼馴染みの、真っ黒に日焼けした肌をいくつもの雫が光る帯のように伝い落ちた。
汗が嫌いだ。
炒ったナッツみたいな、日向に干した布団みたいな、健やかさの証しみたいなにおいに近づかれて静流は半歩後ろに下がった。
「しーちゃん?」
「暑いからやだ。帰る」
への字に結んだ口をむりやり開けてひとことだけ告げると、静流は駅に向かってすたすた歩き出した。背中に陽介の呼ぶ声が当たっても振り返らずに。
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