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第27話

 くしゅ、くしゅ。僕の髪の毛を洗ってくれる相良さんの手。気持ちいい。お母さんの、手みたい。大きくてごつごつしてるのに、手つきが優しくて。安心する。シャワーでシャンプーとトリートメントを流してくれる。せっけんのいい香り。またこれも、高そうなシャンプーとリンスだな。僕の髪なんかに使うのは恐れ多いと思った。  1番肝心なところなんだけど。相良さんは変な手つきはせず、全身を洗ってくれた。身体中触れられて。きっと相良さんじゃなかったら暴れてた。誰かに肌に触れられるのは、これが初めてだった。胸だって下半身だって、ささっとボディタオルで洗ってくれた。直の手じゃなくてよかった。あ、でもこれ相良さんのだよね。僕の体の汚れとかついて嫌だよね。今度、弁償しよう……。 「あたたまった?」 「はい」  ドライヤーの音に負けないように、声を大きくする。さわさわと撫でてくれる手つきが、声が僕の心の奥深くにまで響いて。心地いい。この瞬間が。もうずっと、このまま時が止まればいいのに。仕事なんて、明日なんて忘れて今だけを生きていたい。相良さんと何気ない会話をして、楽しく過ごしたい。相良さんは懇切丁寧にドライヤーをかけてくれて。至れり尽くせりとはこのことだ。Domだからかな。相良さんがここまで人のお世話をしたがるのは。怪我人はほっとけないだろうし……やっぱり迷惑だったかな。僕ってほんとに鈍臭いな。怪我なんてしなければよかったのに。でも、過ぎたことを嘆いても現実は変わらなくて。  ゴォーっと鳴っていたドライヤーの音が止む。僕は右手を擦りながら、目の前にある鏡を見た。洗面台に男2人。ちょっと狭いかもしれない。鏡に映る相良さんと目が合う。どき、と胸が鼓動した。目が、離せない。そのまま無言で数分経って見つめ合う。最終的には、相良さんから目を離してくれた。ほっとして、俯く。

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