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第28話

「雛瀬くんはこのベッドを使って」 「はい。ありがとうございます」 「それじゃ、おやすみ」  時刻は午後11時。明日は遅番だから午前中は時間がある。相良さんの迷惑にならないうちに起きて、帰る準備をしよう。そう思ってベッドに横になろうとしたとき。あれ? という違和感に襲われた。僕がベッドで寝たら相良さんはどこで寝るの?  僕は慌ててリビングに繋がる廊下を走る。リビングでは、小さな音でテレビを見ている相良さんの姿があった。もふもふしている灰色のブランケットを手にソファに横になっている。 「どうしたの?」  気遣わしげな視線。僕は、「あの……」と言葉を漏らす。なんて、言ったらいいんだろう。これって、言っていいのかな。でも、変かな……。 「また、唇きゅってなってる」 「っ」  指摘された。小さい頃からの癖。言いたいことがあるとき、言うかどうか迷って唇をきゅっと噤んでしまうことがある。今まで母親しか気づかなかったのに。 「言ってごらん」  そう言った相良さんの瞳の奥が優しくて、優しくて。僕はようやく言葉を吐き出せた。 「一緒にベッドで寝ませんか」 「……」  どうしよう。相良さん黙っちゃった。僕の馬鹿。やっぱり、変な意味に聞こえてしまうかな。もっと、賢い言い方があるだろうに。 「このあいだも、ホテルで一緒に寝ましたし……それに人肌があると落ち着くっていうか」  何言ってるんだ、僕。頭が混乱して思いついたことをばんばんと口にしてしまう。 「いいよ」  なんともないよ、というような彼の声。全然焦りとかないみたい。困ってる様子もなさそうだ。僕の一方的な杞憂だったらしい。 「じゃあ、行こうか」 「あ、はい……」  相良さんに貸してもらっただぼだぼのスウェットに身を包んだ僕を、相良さんが背中を押して寝室に導く。生地越しに伝わる熱はあたたかくて。

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