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第29話

 2人してベッドに寝転ぶ。前回と違うのは、お互い向き合って横になっているということ。相良さんに「話がある」と言われたから、こういう風に向き合っている。相良さんは言いづらそうに、言葉を発した。 「俺の憶測だから、違ってたら悪いんだけど……雛瀬くんはCommandに反応するのは俺が初めてだったりする?」  やっぱり、ばれてた? 僕は小さく頷いた。28歳でいい歳なのに、これまでそういったことに疎かった僕の人生っていったいなんなんだろう。まるで、子どもじゃないか。僕は恥ずかしさで胸がいっぱいで、相良さんと目線が合わせられなくなった。スウェットの裾をぎゅっと掴む。 「そっか。はじめてのことだらけで、怖かったよね」  やっぱり、優しい。目元にできる笑いじわを見てほっとする。相良さんは僕のことを第一に心配してくれる。こんな人、この世にいるんだ。僕のことなんかを本気で心配してくれる人。嬉しいけど、申し訳ない。 「でも、それ聞いて嬉しくなった」 「なんでですか?」  食い気味に聞いてしまう。そんな僕の様子に嫌そうな顔をせず、相良さんは言う。 「雛瀬くんのはじめては俺が奪ったんだから。そんなの嬉しいに決まってる」  はじめて……。そうだよ。僕にとっては全部相良さんが初めてだよ。ここまで僕に優しくしてくれるのも、気にかけてくれるのも。あなたがはじめてだよ。 「雛瀬くん?」 「ごめ、なさい……」  ぽたぽたぽた。頬を伝う涙が、視界が。くぐもってよく見えない。急に泣き出して、変なやつだと思われはしないだろうか。また、相良さんを心配させてしまうのか。それが嫌で、僕はスウェットの袖で涙を拭う。それでも涙は止まってくれなくて。鼻をぐずぐすと言わせて泣いていた。シーツまで濡らしたらだめだ……。泣くのを我慢しようと思っても、今度は逆に嗚咽が込み上げてきて。情けない。いい大人なのに。人前で泣くなんて。

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