35 / 276

第35話

「雛瀬先輩、お疲れ様でした。お先に失礼します……と、その前にひとつお話したいことがあるんですが、お時間大丈夫ですか?」 「うん。お疲れ様。今は書類の整理をしてるから、やりながらでもいい?」 「すみませんお仕事中に……」  金森さんは少し声を小さくした。 「今日、とある方の相談に乗っていたんですが……話を聞いたところ、第2の性について悩んでるみたいなんです。まだ中学生の男の子なんですけど、Domと診断されたからとても不安だって言うんです」  うちの会社は学生向けにも電話相談の案内のチラシやパンフレット、広告を載せているから未成年からの相談も結構ある。第2の性の悩みについては、家族や友人に言えないこともあるのだろう。金森さんは、真剣な表情で僕に言う。 「わたし、25年間Subとして生きてきたんですがDomと診断されて不安になったという悩みを持つ人に出会うのは初めてで……なんてアドバイスしてあげればいいかわからないんですよね。雛瀬先輩なら、どう言いますか?」  僕はプリントを束ねていた手を休める。 「そうだね……アドバイスすることよりも、その子の話を聞いてあげて、共感してあげることが大事なんじゃないかな」 「そうですよね……わたしもそう思って聞き手に徹していたんですけど、その子の希望としては答えを聞きたいみたいなんですよね。これからどうやって生きていけばいいのかを知りたいみたいなんです」  僕は、どうやって答えてあげるのが1番なのか考えた。そして、考えた末にこう答えた。 「その子の電話、今度僕が受けていいかな?」  金森さんは「ぜひ、お願いします!」とお辞儀をする。僕はその子ーー名前は沢村くんというらしいーーとの電話の予約を金森さんにとってもらうことにして、書類整理の仕事に戻った。

ともだちにシェアしよう!