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第37話
ばしゃばしゃばしゃばしゃ。ホースで直接水を叩きつけられてるみたいだ。僕は傘を片手に、リュックが濡れないように気をつけて歩く。靴は、濡れないように長靴にした。
ドラッグストアに入ると、買い物リストを片手にカゴを持つ。見知った店内をぐるぐると歩き回り、お会計。ここのパートのおばちゃん。いつも一生懸命で、応援したくなる。ときどきおつりを間違えることもあるけど、なんだかそこも抜けてて可愛い。
エコバックは、紺色のシンプルなものを愛用している。シンプルイズベスト。使わない時は折りたためるので、邪魔にならなくて気に入っている。
家に帰って洗濯機をつける。ごうん、ごうんと洗濯物が動く音が部屋に大きく響いて。少し寂しい。僕は1人きりなんだと思ってしまうから。気づいたら、勝手に手が動いてた。スマホをタップして、アプリを開く。相良 優希の名前を押して、電話をかけていた。
ーーどうせ、出ないよね。
相良さんは忙しいから。こんな昼間に……仕事中だから、きっと繋がらない。繋がらないと思ったからこそ、かけた。誰かに、ううん。相良さんに構って欲しかった。話を、聞いて欲しかった。
ワンコール、ツーコール、やっぱりね……ピッ。
「もしもし……雛瀬くん?」
嘘。出た……。僕は慌ててスマホを掴む。変な汗でぬめって、手から落ちてしまった。ゴッと鈍い音をして、床にスマホが落ちる。急いで拾い上げてから、
「っ相良さん、すみません」
謝った。相良さんは、「俺は平気だけど」と呟いてから「どうしたの?」と聞いてきた。
「今日、仕事休みで……ちょっと寂しくなっちゃったみたいで……急にかけてすみませんでした」
すると、彼は電話越しに笑ったみたいで。
「いいよ。雛瀬くんからの電話なら、いつでも出るよ」
これ、無意識なんだろうな。甘い台詞に胸がさわさわと落ち着かない。意図的にやっているとしたら、相当の手練だ。
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