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第39話
「さぁ、入って」
「お邪魔します」
初めて来た時は意識がなかったから。
「あたたかい飲み物でも作ろうか。俺はアメリカンコーヒーだけど、雛瀬くんは何がいい? ココアにレモネードにアールグレイに。色々あるよ」
相良さんに連れられてキッチンに向かう。すごい……大理石のキッチンだ。棚や家電は黒で統一されていて、かっこいい。
「じゃあ、ココアで……」
「わかった。雛瀬くんは、先にリビングに行ってソファにでも座ってて」
「はい」
リビングに足を踏み入れ、ソファに座る。前来た時は横にならせてもらってたけど。黒色のぱっきりとした色。絨毯は白で、ローテーブルも白で。モノトーンっていうのかな。大人の雰囲気がして、いいな。それと、あんまり生活感がない。モデルルームみたいだ。
「熱いから気をつけて」
「ありがとうございます」
相良さんが持ってきてくれたカップに口をつける。雨に濡れたから、ひどく熱く感じる。体がぽかぽかと温まっていくようだ。相良さんも1口、コーヒーを飲んでいた。
「それで……どうしたの?」
「あ、その……」
そうだ。僕が電話したから、相良さんが家に招いてくれたんだ。話したいことは山ほどあるはずなのに、緊張のせいか言葉が出ない。
「いいよ。無理しないで」
ふ、と相良さんが笑う。笑いじわを見て、少し落ち着いた。僕は昨日、金森さんに教えてもらった相談者のことを話すことにした。
「僕、相談機関の支援員をしているんですけど、その相談について、相良さんの意見を聞きたくて」
「へえ。そうなんだ。雛瀬くんにぴったりの仕事だね」
「え? そう、ですかね」
ぴったりなんて、言われたことない。僕は相良さんの目を見つめた。おだてている気配はない。
「天使の声」
相良さんがぽつりと言葉を落とした。僕の方を見て、まなじりを落として。
「……?」
「雛瀬くんの声を聞いたときから、ずっと思ってた。天使のような声をしているって」
「天使ですか? 僕にはもったいないですよ」
苦笑していると、相良さんが目を細める。
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