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第40話

「天使がこの世に舞い降りたんだとしたら、それは雛瀬くんのような人のことを言うんだよ」  それは、いいすぎじゃないかな。僕はじっと相良さんを見据える。この人は、どうしてこんなに僕を喜ばせる言葉を言ってくれるんだろう。 「声音がね、優しいんだ。鈴の音みたいに笑うし。俺は、好きだよ」 「っ」  好き。というたった2文字の言葉に動揺した。ちがう、そんな深い意味じゃない。likeのほうの意味だ。変に意識しちゃだめだ。 「ありがとうございます。相良さんにそう言ってもらえると嬉しいです」 「それで……俺の意見を聞きたいんだっけ?」  僕はすっかりその話を忘れそうになっていた。 「そうなんです。第2の性のことで悩んでいる子がいて。Domとして診断されたから不安になってしまったらしいんです。詳しいことは聞いてないんですが、これからどうやって生きていけばいいか答えを知りたいみたいなんです」 「なるほどね」  そう言うと、相良さんは遠い目をした。どこか遠くの方に想いを馳せているような。そんな表情だった。 「Domと診断されて、その子は怖かったんじゃないかな」 「怖い?」  僕が聞き返すと、相良さんはゆっくりと言葉を紡ぐ。 「DomにはglareやCommandが放てるだろう? Subのことを意のままに操れると言っても過言じゃない。その子には、大切なSubの友達や恋人がいるんじゃないかな」  そこまで考えもしなかった。相良さんの考えはすとんと腑に落ちた。僕はSubだから、glareやCommandを放たれて従属するのが怖いと思っていたけど、Domもそう思うことがあるんだ。じゃあ、相良さんは? 自分の性をどう思っているの?  僕は気になって、気づけば口にしていた。 「相良さんはどうなんですか?」

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