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第41話

 ぴり、と相良さんの纏う空気が変わった。いけないことを聞いちゃったかな。相良さんの表情は固くなり、目は僕を見つめて離さない。獲物を捉えたような瞳。僕は体が小刻みに震えるのを感じた。 「俺にとって、Domというのは毒だ」  毒、という言葉を選ぶあたりきっといい話じゃない。僕は体の震えが相良さんにバレないように、着ていたパーカーの裾を握った。 「毒は……美しい花を枯らしてしまうから」  虚ろな瞳。こんな相良さん見たことない。自分を責めるような言い方に、僕はひっかかる。まるで、罪を犯したような、そんな言い方。 「……ごめん。また、怖がらせちゃったね」  はっと我に返った相良さんが、僕の肩に手を乗せようとした。僕はそれを反射的に避けてしまう。あ、やっちゃった。僕の体は意志と反して動いてしまって。不快な思いをさせてしまったよね……そう思って相良さんを見るとーー。 「……いいんだよ。俺のこと怖いと思っていいんだよ」  今まで見たこともないくらい綺麗に笑うから、僕は瞬きも呼吸さえもできなくなって。その大きな体を抱きしめたいと思った。ひとりぼっちで、しくしく泣いている子どものように見えたから。 「っ雛瀬、くん?」  僕はすかさず相良さんの体を抱きしめた。僕の短い腕じゃ相良さんの背中を覆うことはできないけど。僕なんかの小さな掌じゃ、なにもできなくても。悲しく笑うのを見るのは嫌だ。この人には、笑顔でいて欲しい。  言葉が出なくて。今の気持ちを言葉にできなくて、黙って抱きしめる。すると、今度は僕の背中に腕がまわって。いつのまにか、僕は相良さんの腕の中にいた。体勢逆転してるし……。僕は恥ずかしくなって顔を伏せる。

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