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第42話
「あ、すみませんお手洗いに……」
「うん。廊下出て右側のドアだよ」
僕は離れなきゃと思って、言い訳をする。きっとこんな嘘ばればれだと思うのに、相良さんは気付かないふりをしてくれている。やっぱり、この人優しいや。
リビングに戻ると、相良さんはパソコンのキーボードを叩いているところだった。僕は邪魔にならないようにソファの隅にちょこんと座る。
「おかわり、いる?」
「あ、じゃあお願いします」
さっきのことはお互い触れない。ココアのおかわりをもらってから、僕はさっきの相良さんのことを思い出す。声が震えてた。触れてほしくない場所に僕が踏み込んでしまったから。
「さっきはごめん。それと、ありがとう」
僕はココアを啜るのをやめた。少し照れたように彼は言う。
「こういう姿を見せることは普段はないんだ……だから自分でも驚いてる」
そうなんだ。僕だけに見せてくれたんだ。僕は相良さんに頼りきってるけど、相良さんはどうなんだろう。僕のこといい友人だと思ってくれてるかな。そうだといいな。
「そういえば、お互い名前と連絡先くらいしか知らないね。改めて、自己紹介してもいいかな?」
たしかに。僕は相良さんの仕事も知らない。
「俺はミラコッタっていう会社で働いてる。最近は在宅勤務も多いから、家で働くことが多いかな」
「ミラコッタって……あの有名な外資系の企業ですよね? 全国チェーンのピザ屋とか、輸入食品を販売してるスーパーを経営してる……」
相良さんは少し目を大きくした。
「詳しいね。会社のこと知ってるなんて驚いたよ」
「実は、学生時代そのピザ屋でアルバイトをしていたので……」
「そうなんだ。意外な共通点が見つかったね」
なんか、相良さん嬉しそう。僕も共通の話題が見つかって嬉しい。
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