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第45話

 掠れた声で、そう口にした相良さんを仰ぎ見る。つう、と頬を伝う透明な雫。ーー泣いている。嫌な夢でも見ているのだろうか。僕は着ているトレーナーの裾でその涙を拭った。その刺激に驚いたのか、相良さんの体がびくりと跳ねた。 「あ……雛瀬くん?」  泣いていたことは覚えていないようだったから、触れずにいると相良さんは不思議そうな目で僕を見た。 「あれ、ごめん……なんか抱き枕みたいにしちゃってる、ね」  相良さんの顔が青ざめていく。こんな顔もするんだ。僕はちょっと体を離した。 「ああ、俺。何やってんだろ」  相良さんが、ぱ、と体を離してくれて。僕はその反応が面白くて、くすと笑ってしまう。 「ほんとにごめん……飲みすぎたみたいだ。ちょっと顔洗ってくる」  ばたばたと慌てて洗面所に向かっていく相良さんを見ているのは、案外面白かった。焦ってるのかな。 ……もっと抱きしめて欲しかった。そんなふうに思う自分を叱る。相良さんが優しいからそれに甘えてしまうんだ……ほんとに僕はお子様だな。  相良さんが帰ってくるまで、キングサイズのベッドでごろごろしていた。こんなふかふかの大きなベッド見たこともない。なんか、王様になったみたい。僕は足をぱたぱたさせて寝転んだ。枕ももちもちしてて、お餅みたいに柔らかいんだ。なんだか……魔が差してしまって。僕は相良さんが頭を乗っけていた枕を鼻に押し付ける。すぅ、と深く息を吸った。ああ、相良さんの匂いがする。 「こら。だめだろう」 「へ?」  なにこれ……相良さんに後ろから両脇を抱えられて。猫を抱っこしてるみたいな体勢に赤面する。いや、待って。それよりもくんくん枕を嗅いでたのを見られてた? うわ、どうしよう。恥ずかしい……。

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