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第52話
「飴と鞭と言った方がわかりやすいかもしれないね」
「飴と鞭?」
僕は、首を傾げた。僕はSubのくせにこういう経験が全くないから……相良さんはきっと、心底呆れているだろう。内心はらはらして相良さんの顔を見上げると、目元が笑っていてほっとする。
「そう。さっきみたいなのをplay《プレイ》と呼ぶんだよ。playが終わったあとに、DomがSubに与える飴ーーそれがアフターケア。今みたいに、俺が雛瀬くんのことを甘やかしてることを言うんだよ」
じゃあ僕は今、相良さんに甘やかされてるのか。なんだか子どもみたいで恥ずかしい。この姿勢もなんか……距離が近いし。特に、顔のあたりが。相良さんの顔はもう目と鼻の先だ。
「ほんとはもっと甘やかしたいところだけど、そろそろ時間だよね。送ってく」
相良さんが僕の身体を持ち上げて立たせてくれた。甘い雰囲気はそこでぷつんと切れて。僕も、それに合わせて不用意に近づかないようにしようと思った。
車に揺られている途中、2人して無言だった。あんなことが起きたんだ。どんな顔していいのかわからない。どんな話をすればいいのかも、わからない。そんなことを考えていると、あっという間に職場に着いてしまった。
「ありがとうございました」
「うん。行ってらっしゃい」
相良さんはそのまま来た道を戻っていく。僕は相良さんの車が見えなくなるまで、目で追いかけていた。
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