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第53話

「もしもし。ひだまり相談室の雛瀬です。沢木(さわき)くんかな?」  手元にある電話番号を見ながら聞く。電話の向こうの彼は、まだ声変わりしていないのか高い声で答える。 「はい。沢木です。金森さんから担当者が変わったと聞いています。今日は、よろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしくね」  礼儀正しい子だ。沢木くんの第一印象はそれだった。 「俺、Domって診断されて怖くて……家族とか友達にも悩みを相談できなくてここに電話したんです。雛瀬さん。俺はこれからどうやって生きていけばいいですか?」  捲し立てるような早口に僕は少し驚く。きっと、不安でしょうがないんだろう。僕はまず、沢木くんを安心させようとゆっくりと話す。 「Domの何が怖いのか教えてくれる?」  電話越しで彼は考え込んでいるらしい。言おうか、言うまいか。数秒の沈黙を破ったのは彼だった。 「……大切な人がいるんです。その人はSubで、俺はDomだから。glareが出てしまったら怖がらせてしまうでしょう? これからもずっとその人の隣にいたいから……不安でたまらないんです」  思春期には無意識にglareが出てしまうことも多いという。それをglareの暴走といって、酷い場合は薬を飲むこともあるのだと僕は金森さんから聞いていた。 「その人を大切に思う気持ちがあれば、きっと大丈夫。沢木くんはその人のことを傷つけようとは思ってないんでしょう?」 「もちろんです」 「仮に、glareが出たとしてもそれは沢木くんのせいじゃない。きちんと理由を説明すれば、その人もわかってくれるんじゃないかな」 「そう、ですよね。わかりました。俺のせいじゃないって考え方、必要ですね。ちょっとメモしてもいいですか?」  沢木くん、すごく真面目な子だ。僕は「いいよ」と言って、今言ったことをもう一度繰り返す。彼はメモを取り終えたらしく、声をかけてくれた。

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