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第54話
「雛瀬さん。ありがとうございました。少し、安心しました」
幾分か沢木くんの声のトーンが明るくなったような気がする。
「また、悩み事があったらいつでもかけてきてね」
「はい。そのときはよろしくお願いします」
ぷつ、と電話が途切れる。僕は1度、大きく伸びをした。時刻は21時。あと2時間で帰れる。僕は自分を鼓舞するために、自分の胸をとんとんと軽く叩いた。子どもの頃、母に教えてもらったおまじない。疲れたときや苦しいときは、これをするとたちまち治ってしまうのだという。僕はそれを信じているからか、結構効果を感じている。
帰宅してから、ベッドに入るまでは早い方だと思う。簡単にシャワーを浴びて、コンビニで買ってきたサラダチキンとプロテインバーを食べて歯磨きして。もう寝る準備万端。寝落ちするまで海外ドラマを見るのが僕のルーティンだった。活動場所は主にベッドの上。横になってスマホをいじる。
相良さんとは、あの日以来会っていない。もう1ヶ月近く経つ。自分から連絡を取るのは気が引けてしまって。相良さんからは連絡がないし、きっと忙しいんだと思う。ふと、相良さんの顔が頭の中に浮かんだ。笑いじわ。鉱石のように黒い瞳。そして、長くて骨ばった指先。
「っ」
思い出したら、体がぴくりと反応した。え、今ので? 最近、忙しくて眠くて全然してなかったから? 身体中の血液が一点に向かう。高校のときのジャージが履き心地がいいから寝巻きにしている。むくりと起き上がってきたものが見えて……僕はおそるおそる膨らんでいる部分に手を添えた。熱い……。
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