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第56話

「雛瀬くん。久しぶり」 「お久しぶりです」  相良さんから連絡があったのは、致した翌朝だった。なんて間が悪いんだ。僕の阿呆。申し訳なくてしょうがなくて。相良さんは、仕事が多忙で連絡が取れなかったのだという。休みがとれたから、町の丘で飲まないかと誘ってきたのだ。僕は行こうか行くまいか悩んだ末に、行くことに決めた。  店内には、僕ら2人と2人がけのテーブル席に座ったカップル、1番手前のカウンターで町丘さんと話しているおばさんだけだった。かなり空いてる方だ。  僕はファジーネーブル。相良さんはウォッカを飲んでいる。おつまみに、ピスタチオとアーモンド、カシューナッツの入った小皿が置いてある。町丘さんがサービスしてくれたものだ。 「前に言ってたDomの子の相談はどう? 解決した?」 「おかげさまで……悩みに答えることができました。相良さんのおかげです」  僕は座ったままぺこりと頭を下げる。相良さんは微笑んでいる。 「俺の力じゃないよ。雛瀬くんの力だよ」  そう言って褒めてくれる。僕、毎回会う度に褒められてばかりだ。ちょっぴり恥ずかしいから、ピスタチオをもぐもぐと食べることに専念する。 「顔、リスみたいだよ」  どんぐりじゃないです。そう言おうと思ったけど、口の中がピスタチオいっぱいで喋れなかった。 「このあと、家に寄らない?」  なんとなく、こういう流れになるんだろうなとは思っていた。ここで断ると、また怒られそうだから。僕は静かに頷く。「じゃあ、行こうか」相良さんが町丘さんに声をかけて支払いを済ませる。僕はいつも奢ってもらっている。最初は払おうとしたのだが、相良さんが許してくれなくて。それ以来、いつも彼が払ってくれている。  もうお決まりになってしまった定位置のソファ。2人して座って、テレビを見ている。お笑い番組なんだけど、僕は全然頭に入ってこない。だって、すぐ近くに相良さんがいるから。相良さんはときどき笑ってたから、テレビを見る余裕はあるのかもしれないけど、僕にはない。そこまで心臓強くないし。

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