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第57話

 お笑い番組が終わったところで、相良さんがテレビを消した。訪れる沈黙に僕はいたたまれなくなる。 「雛瀬くんに話したいことがあるんだ」  相良さんの表情は真剣だ。僕は姿勢を正して話を聞くことにした。 「この間のこと、いきなりで驚かせてしまったよね。ほんとうにごめん」  僕は、あのときのことを思い出して顔を赤らめた。自分の恥ずかしい姿が頭に焼き付いて離れない。 「雛瀬くんは、あのときどんな気持ちになった?」  憂うような視線。僕はその目に見つめられると、言葉を隠すことができなくなる。 「気持ちいいとか、怖いとか、褒められて嬉しいとか……色んな感情がごちゃまぜでした」  相良さんは少しほっとした表情をしたが、すぐさま表情を曇らせた。 「俺のこと、嫌いになった?」  僕の目線に合わせるために背を屈めてくれる優しさが……僕には嬉しいんだ。 「嫌いだなんて思いません。相良さんは僕にとって大切な友達ですから!」  相良さんを安心させようとして放った言葉だったが、逆に嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。相良さんの眉毛がぴくりと反応する。 「ほんとうに友達だと思ってる?」  笑っているはずなのに、目の奥が冷え冷えとしている。相良さんのスイッチ押しちゃったかもしれない……。 「友達はこういうことするのかな」  ふに、と右手で頬を掴まれて。すりすりと撫でられる。相良さんの手、熱い……大きくて安心する。ぼーっと相良さんの顔を眺めていたら、相良さんが吹き出した。この顔、初めて見る。お腹を抱えて笑っている。 「あはは……雛瀬くん、やっぱり面白いね」  しまいには涙まで出る始末。そんなに面白いことしたかな? 訝しんでいると相良さんがもう一度傍に寄ってきて。 「こうすれば、伝わるのかな?」  ちゅ、とおでこに熱いものが触れた。何? 今の。相良さんの高い鼻が目の前に来て、ゆっくり離れていった。

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