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第58話

「えと……」  今、おでこにキスされた? 現実味がなくて体の力が抜けていく。キスって友達同士でするものだっけ? わかんないや……。 「じゃあもっとわかりやすいものを教えてあげる」 「わ……っ」  とさ、と優しくソファに押し倒される。着ていたTシャツをぺろんとめくられた。相良さん何、してーー。 「ひゃっ」  相良さんが僕の乳首を軽く食んでいる。右手で僕のお腹を撫でて、もう片方の手で僕の頭を撫でて。相良さんの唇からちらりと紅い舌が覗いて……すごくえっちだ。ぬるぬるした舌が胸を這うのは、なんだか変な感じがする。わけがわからなくて声が出せないでいると、相良さんが僕の履いているスキニーパンツに手を伸ばしてきた。そしてそのまま勢いよく下ろされる。 「な、なにして……っ」 「何って、雛瀬くんへのお勉強。こうまでしないとわからないんでしょう?」  悪戯そうな瞳と目が合う。僕のことからかってるんだ。僕だって、ここまでされたらわかるよ。こういうことをするのは普通の友達じゃないってこと。 「僕らセフレってことですか?」  これって、そういうことだよね? 僕は叫ぶように言った。 「……おもしろいこと言うね」  相良さんは最初堪えてたみたいだけど、段々と我慢が効かなくなったようで……くくくと喉を震わせて笑いだした。相良さんの笑顔が見れるならもうどうでもいいや。そう思って笑う相良さんを見上げる。目が合って、ぴたりと相良さんの声が止む。 「……俺、悪い大人だね」  目を細めて相良さんが呟く。僕の手のひらをとって、軽く口付けた。王子様、みたい。非現実的な相良さんの言動に焦る。僕のことお姫様みたいに大事に扱ってくれる。こんな経験1度もしたことない。誰かに大事にされるとか、2人で一緒にいるとか。相良さんは僕が今まで欲しくて欲しくてたまらなくて、でも得られなかったものをたくさん与えてくれる。自然と、大袈裟でなく、さも当たり前かのように。

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