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第61話

「雛瀬せんぱーい!」  ぱたぱたぱた。金森さんの足音。フロアの隅のカフェで休んでいた僕に駆け寄ってきてくれる。18時。7月の夕焼けは夏の色をしている。ほのぼのとしていて、眩しさに思わず薄目になる。このビルからは夕焼けがよく見えた。  金森さんだけは、入社して以来だんだんと距離を詰めてきてくれる。職場でこういう人に出会うのは初めてだ。なんとなく、妹みたいな感じで見てしまう。僕はひとりっ子だったから、兄弟や姉妹がいたらこんなふうに見えるのかな。そう思って。 「このあいだ鎌倉行ったので、そのお土産です。良かったら食べてください」  僕の手のひらに渡してきてくれたのは、形の可愛らしいマカロンだった。黄色と、ピンクと水色。水色ってどんな味がするんだろう。そう思って尋ねてみる。 「水色って何味?」 「何味だと思いますか?」  逆に聞かれてしまった。僕はうーん、と考え込んでから 「ソーダ味」  と答えた。内心そうだったらいいなと思って。僕は飲み物の中で1番ソーダが好きだから。夏祭りでよく飲む瓶のやつ。小さい頃から中のビー玉を眺めるのが大好きだった。金森さんは「惜しいです」と笑って答えを教えてくれた。 「ライム味でした」 「大人の味だね」  しげしげと水色のマカロンを眺める。見れば見るほど海の色みたいで綺麗だ。 「ちなみに、黄色いのは柚でピンクのはラズベリーです。私はラズベリーが1番美味しかったです」  頬に手を当ててはにかむ金森さん。きっと、男性陣はこういう仕草にメロメロになってしまうんだろうな。

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