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第66話

「正座して俺に背中を見せて」 「はい」  くるりと相良さんに背中を向けて座る。指示通り正座をして。後ろを向いたとたん急に不安になった。相良さんの顔が見えないから。何をされるんだろう。そう思って振り向こうとした瞬間。 「後ろを見たらだめだよ」  ぴしゃりと背中に突き刺さる冷たい声。僕はまっすぐ壁を見つめた。  つう、と背中に何かがあてられる。ぐりぐりと肩を押すと、だんだんと下に下がってきた。尾てい骨のあたりまで下りると、そこを円を描くように触られる。これ、相良さんの足? 手のひらより大きくてあたたかい。相良さんはベッドに座って片方の足で僕の背中を撫でているんだ。最初はなんともなかったそれは、5分もするとなんだかいけないことをしている気持ちになってくる。黙ってしまった相良さんの反応が怖い。 「ぁっ」  がく、と背中が軋む。相良さんの足が僕の背中を蹴り飛ばした。半ば飛び上がるようにして前に出る。 「今度は前を向いて。正座は崩しちゃだめだよ」  相良さんの表情が見たくて、すぐさま振り返る。ーー目元が緩んでいる。笑ってるんだ。楽しんでるんだ、この状況を。 「驚いたね。でも、ちゃんと言うこと聞けてえらいね」  頭をなでなで。相良さんは撫でるのが得意なんだと思う。僕は相良さんが抱きしめてくれるのをぼーっとして見ていた。蹴り飛ばされた背中を労わるように手のひらでさすってくれる。 「ベッドに上がろうか」  相良さんに抱っこされた状態でベッドの上に落とされる。 「今度はもうちょっと難しいかも。でも、できるよね?」  ふふ、と相良さんが口元に笑みを浮かべる。僕はこくりと頷いた。

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