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第71話 にゃあと鳴くのは

「雛瀬くん。お疲れ様。今日はドリアを焼いてみたんだけど、どう?」  夜番明けのお昼すぎに相良さんから電話がかかってきた。相良さんと話すのは、mateになった日から考えると2週間ぶりだ。僕は眠気まなこで返事をする。 「美味しそう、ですね。食べたいです」  くあぁ、と大きく欠伸をする。その音が相良さんにも聞こえたのか「寝起き?」と聞かれた。 「そうです……昨日夜番で朝7時まで仕事だったので」 「それは大変だったね。しっかり二度寝したほうがいい。夕方、迎えに行くから」  電話越しで心配そうに気遣ってくれる相良さんの優しさに今は甘えたい。 「すみません……ありがとうございます」  僕はもう一度ベッドの中に入り、うとうとと眠り出す。相良さん料理上手だからな……どんな味がするんだろう。僕は無意識に涎を垂らしていたらしい。起きたら、シーツにヨダレの線ができていた。ちょっぴり恥ずかしい。 「お待たせ。ちゃんと眠れた?」  車に乗り込んだ直後、運転席から声をかけられる。相良さん今日はなんかラフっぽい格好だな。有名ブランドのポロシャツに黒のパンツ。膝のところには穴が開いていて、なんというか若々しい格好だ。見た目が若いから、無理してるとかオヤジっぽさは皆無だ。ぴしりとしたスーツも今みたいな少しちゃらめの格好も似合う相良さんはすごいな。僕なんて背伸びしても大学生くらいにしか見えないと言われてきたから。内心、羨ましくてしょうがない。  車に揺られながら窓の外を眺める。真っ青な青空に、白い入道雲がもくもくと浮かんでいる。ここ最近晴れの日ばかりが続いている。夏場は洗濯物が乾きやすくて助かる。けど、たまには雨の日も欲しい。雨は命の源だと思うから。緑も、花も、人間も水なしでは生きられない。雨に打たれて、何も考えずぼーっとしたい。小さい頃はよくそういうことをして母から叱られてたっけ。風邪ひくからやめなさいって。でも僕は言うことを聞かずに、雨の中どんよりとした灰色の空を眺めていた。そうすると心が落ち着くから。心の水面がしん、と静まり返って頭の中がクリアになる。雨は好きだ。相良さんと出会えたのも、雨が降っていたから。だから僕は雨に感謝している。

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