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第72話

 相良さんが家のドアを開ける。僕はいつものように靴を脱ぐために玄関に足を踏み入れた。 「っ」 「……会いたかった」  のし、と背中に加わる重み。相良さんが僕の背中に抱きついている。身長差がだいぶあるから、僕は壁に手をつけて支えておかないと膝から崩れてしまいそうだ。ぷるぷると重みに耐えていると、僕が瀕死状態のことに気づいた相良さんが慌てて後ろに飛び退いた。 「痛っ」  勢いあまって、ドアに後頭部をぶつけてしまったらしい。珍しいな……こんな相良さん。あちゃーっとした苦笑を浮かべて頭をさすっている。 「相良さん大丈夫ですか?」  僕ははらはらしながら声をかける。すると彼は、「大丈夫だよ」と言って微笑んでくれた。あ、いつの間にか手を握られてる。きゅ、と相良さんと比べたら子どものような大きさの手を掴まれて僕はリビングに向かう。  部屋の中に入ると、ミートソースかな。トマトのいい香り。リビングのキッチンに面した場所には4人がけのダイニングテーブルがある。黒い足に大理石のテーブル板のそれは、相良さんの趣向なのだろうか。だとしたら、絶対センスがいい。テーブルの上には紙ナプキンが結んで置いてあった。フォークとナイフ、スプーンもきっちりと揃えられている。なんだかアメリカのパーティのディナーみたいだ。  僕は自分の服装がこの場に相応しくないのではないかと不安になる。白い半袖Tシャツに、膝丈のハーフパンツ。色は紺。ふくらはぎの高さまである横に黒い線が入った白の靴下。このくらいの長さの靴下が流行っているらしいと耳にして買ってみた。ちょっと中途半端な長さの気もするけど……これがおしゃれってものなのかなと思ってあんまり気にしないようにする。 「座って。今、ローストチキンも焼いてるから」

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