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第82話

「さぁ。いこうか」  また両脇に手を差し込まれて僕は抱っこされる。そのままリビングに向かっていった。ソファの上に下ろされるが、相良さんの膝の上に乗る形になる。僕は下半身を丸出しにしていることに今更気づき、内股にした。それよりも何よりも、お腹にもお尻にもメープルシロップがかかってるから、家具を汚しはしないだろうか。それが気になって仕方ない。 「もっとじゃれてよ」  少し不満げな相良さんの瞳。僕は相良さんの希望通りに猫になりきってじゃれることにした。相良さんの指に甘噛みしてみる。かぷかぷ。痛くないかな……加減しないと。相良さんの顔を見つめると、満足そうだったからほっとした。  相良さんはテレビを付けて見始めてしまった。僕に目を向けることも無く、夜のニュース番組を眺めている。表情はいたって真剣だ。でも、指先だけは遊んでくれて。僕の耳や口を撫で回し、お尻も撫でてくる始末。これって時と場合によればセクハラなんじゃ……なんていう考えが頭をよぎったけれど。相良さんなら許せる。でも、ニュースに見入っているのか相良さんは全然構ってくれなくなった。だから、僕は相良さんに喜んでもらうために少し身体を起こす。ねえねえと手を触ってみたり、頭を肩にぐりぐりと押し付けてみたけど反応はない。僕は構ってもらえないと寂しがるタイプだ。じゃあもう、こうするしかない。  ふ、と相良さんのほっぺたにキス。これで、どうかな……振り向いてくれるかな。相良さんはぴたりと固まってしまった。でも、数秒後には。 「飼い主に襲われたいの?」  相良さんに肩を抱き寄せられた。腕の中にすっぽりと収まる。やっと視線が交わった。よかった……僕は相良さんの目を見つめて答えた。 「にゃあ」  ただの返事のつもり。でも相良さんには別のメッセージと受け取られたらしく、僕の口元に手をはわせてきた。

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