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第84話 1日相良さんを好き勝手できる券
ん……重い、熱い。
あれ、これってーー。
僕の胸にまわされているのは、力強い腕。健康的な肌色が目にちらつく。僕は相良さんに囲われるようにしてベッドに横になっていたらしい。ベッドの横にあるサイドチェストの上に時計があるから、それを見てああ7時なんだと実感する。時計には数字の刻印はなくて、あるのは銀色の棒線だけ。お洒落だけど、見慣れてない僕にはわかりにくい。
「ん……」
背中で身動きする音。僕は、相良さんの方に向き直る。ぼんやりとした目の相良さんと目が合った。
「にゃあ」
「っ雛瀬くん……」
僕は昨日の指示通り猫のままでいようとする。相良さんは焦ったように起き上がった。
「もういいよ。猫にならなくて」
「……わかりました」
僕は寝転がったまま相良さんを見上げる。僕がにゃあと言ったから、少し動揺しているのかもしれない。
昨日の夜は身体中メープルシロップだらけでべとべとだったけど、今はどこも濡れてない。相良さんが昨日の夜、僕が眠っている間に拭き取ってくれたのだと教えてくれた。
「あらためて……おはよう」
触れられた場所がジンと熱を持つ。相良さんは僕の唇に口付けを落としてくれた。触れるだけの、優しいキス。僕はたまらなくなって相良さんの手を握った。ぎゅ、と握ると、ぎゅと握り返してくれる。それが嬉しくて。僕は上機嫌で相良さんの後ろにべったりとくっつき、キッチンに向かった。相良さんはオレンジジュースをグラスに入れて渡してくれる。僕はそれをごくごくと飲み干し、空にした。朝はやっぱり甘いものに限る。
相良さんが焼いてくれたトーストをかじって、2人で朝のニュースを眺める。はちみつバターを付けて、2枚いただく。今日は曇り。風が強く吹くらしい。僕の仕事は今日は休みだから、1日ゆっくりしていられる。相良さんが許してくれればだけど、相良さんの家に1日いても怒られないかもしれない。そう思うと気分がどんどん上がっていく。大好きな人と1日一緒にいられるかもしれない。
「おいで」
朝食後、相良さんの言葉に引き寄せられるようにしてクッションに座る。あの、白いもちもちのクッション。相良さんはソファに座ってクッションに腰掛ける僕を見下ろしていた。
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