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第85話
「昨日はよく頑張ったね」
いいこいいこされた。僕はもっとして、と相良さんの手に自分から頭を擦り付ける。相良さんは一瞬驚いたような顔をしたけど、今度は髪がくしゃくしゃになるまで撫でてくれた。
「昨日の夜は雛瀬くんの充電が切れちゃったから、アフターケアができてないんだ……だから、俺から1つ提案させて」
たしかに。僕は途中で意識を失ってしまったから。相良さんは、こほんと咳払いをして言う。ちょっと恥ずかしそうに睫毛を伏せて。
「そこで、今日は雛瀬くんに『1日相良さんを好き勝手できる券』をあげようと思います」
相良さん耳まで真っ赤だ。かわいい……。
「そういうことだから、ね。今日は夜まで一緒にいてくれる?」
言葉は優しいのに、目は有無を言わさないくらい真剣だ。僕は「はい」と答えて考える。この状況どうしよう……面白そうだけど、なんでも許してくれるのかな?
「雛瀬くんは行きたい場所とかない?」
「そうですね……水族館とか行ってみたいです」
本物ののあざらしが見れるかもしれない。僕はまだ、生のあざらしを見たことがなかった。そう期待して言ったのが、相良さんにはしっかりと伝わっていたらしい。
「あのゲームのあざらしかわいいからね。じゃあ、今から行こうか」
あ、目元に笑いじわ。相良さんが笑うときのパターンはいくつかあるみたいで。僕はそれがなんとなく把握できるようになってきた。笑い方に1から10までの段階があるんだとしたら、お腹を抱えて笑うくらいが10。目元に笑いじわができるのが6。唇を横に引いて微笑むのが1。たぶん、だいたいこんな感じ。だから今は6あたり。きっと、相良さんも楽しみだと感じてくれている。それが素直に嬉しいと思った。
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