87 / 276

第87話

 館内を2時間ほど練り歩き、館内にあるカフェでお昼を食べることにした。カフェは混んでいるらしく1時間待ったが、その間も相良さんとお喋りができて全然苦じゃなかった。 「どれにしようか」  相良さんと一緒にメニュー表を見る。向かい合って座っているせいか、なんだかそわそわとして落ち着かない。こじんまりとしたチェアとテーブルなので、必然的に男2人なら距離が近くなる。猫足の白いチェアはどしんと座ったら壊れそうだ。僕は慎重に腰掛けたから大丈夫だと思うけど。相良さんは体格がいいから、椅子が小さく見える。足なんか伸ばしても足りないくらいで。ちょっと狭くて大変そうだ。 「僕、これにします」  アボカドとエビのブリトーを指さす。相良さんは少し迷ったみたいだけど、ベーコンとポテトのブリトーを選んだ。店員さんを呼んで注文をとってもらう。 「アボカドとエビのブリトーに、ベーコンとポテトのブリトーですね。お飲み物は何になさいますか?」  アルバイトの子かな。黒髪ショートカットの大学生くらいの女の子が笑顔で聞いてくれる。僕はマスカットジュースを、相良さんはアイスコーヒーをお願いした。 「よろしくお願いします」  相良さんがにこやかに応じる。店員さんはぽっと頬を赤らめて、早口に言った。 「かしこまりました。お料理ができるまで、こちらのゲームをお楽しみください」  手で示されたのは、カフェの入口近くにあるガチャガチャだった。コインを1枚渡して案内してくれる。店員さんから軽く説明を受けてから、相良さんが僕にコインを渡した。 「やってみなよ」 「でも、相良さんの分は……」 「いいよ。俺は雛瀬くんの反応見るだけでお腹いっぱいになるから」  そう言って、背中を押される。僕はガチャガチャにコインを1枚入れて、取っ手を回した。ころん、とした形の円形のカプセルを開く。紙切れが1枚入っていた。『デザートおひとつ無料』うそ。やった。僕は駆け足で相良さんの元に向かう。

ともだちにシェアしよう!