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第88話

「これ、当たりました!」  相良さんの前に紙を見せる。 「雛瀬くん強運だね」  僕は今日はいい事づくめだと思った。相良さんと一緒に水族館に来れたし、あざらしのあかちゃんも見れた。それに、デザートおひとつ無料。運が良すぎて、後で悪いことがたくさん降り掛かってきたらどうしよう……だめだ。今は楽しいことだけ考えよう。僕は自分の後ろ向きな考えに蓋をした。 「どれにしようか迷います……」  デザートのページでにらめっこしていると、相良さんが「これはどう?」と指さししてきた。 「キャラメルワッフル?」 「雛瀬くん甘いもの好きでしょう? ワッフルって柔らかくて食べやすいから、ブリトーでお腹いっぱいになっても食べやすいと思うよ」 「じゃあそうします」  相良さんにおすすめされると、なんでもそれを頼みたくなる。好きな人がおすすめしてくれるものなら、全部試してみたい。店員さんがブリトーを持ってきてくれたタイミングでキャラメルワッフルを注文した。さっきの黒髪ショートカットの店員さんは、注文をとっている間ずっと相良さんのことを見ていた。きっとかっこよくて一目惚れしちゃったんだな。相良さんやっぱりモテるんだ。いいな……。 「1口交換しない?」  相良さんの提案を快諾する。実は僕も相良さんの方のブリトーを食べてみたかった。 「もちろんです」  ぱくり、と1口食べてみる。ブリトーの皮がもちもちしていて弾力がある。ブリトーなんて初めて食べた。こんな味なんだ。中に入っていたベーコンとポテトは黒胡椒がきいているのか、食欲がそそられる。僕は「ありがとうございます」と相良さんにお礼を言って、自分の分を渡そうとした。 「っ」 「おいしいね」  相良さんは僕が手にしたブリトーにそのまま食らいついた。僕の手を自分の方に引き寄せて。驚いた……外でもこんなふうに近い距離で接してくれるんだ。たいていの人は人目のある場所で近い距離に行くのは躊躇うから。僕もそうだし……。

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