89 / 276

第89話

 ブリトーを食べ終えた後で、店員さんがキャラメルワッフルを持ってきてくれた。僕はすかさず写真を撮る。今度、金森さんに見せてあげよう。きっと嫉妬する。僕は内心にやりと笑ってキャラメルワッフルを見つめた。 「いただきます」  ナイフとフォークでお上品に……とはいかないかもしれないけど、不器用ながらにワッフルを切り分けていく。キャラメルソースがお皿にとろりと垂れていく。生クリームが備え付けられていたので、それを軽く付けてから口に含んだ。……甘い! キャラメルは普段あまり口にしないけど、少しほろ苦さがあってアクセント抜群だ。ワッフルも小麦の香りがいい匂い。んんー。至福……。僕がキャラメルワッフルに夢中になっているのを相良さんは黙って見ていた。でも、唐突に。 「俺にも1口ちょうだい」  口を軽く開いて顔を近づけてきた。 「あ、の……」  相良さんにナイフとフォークを渡そうとすると、その手を止められる。 「雛瀬くんにあーんしてもらいたいな」 「!?」  お客さんがいるここで? 僕はナイフを床に落としそうになった。相良さんは恥ずかしくないんだろうか……僕がもたもたとしていると相良さんはちょっと眉根を寄せた。あ、この顔不満げなときに見せる表情だ。僕は震える手でキャラメルワッフルにフォークを突き刺し、相良さんの口元に持っていく。 「ちゃんとあーんって言って」  相良さんの眼力に耐えられそうもなくて。 「あ、あーん」  僕は相良さんにだけ聞こえるくらい小さな声で言葉を発した。キャラメルワッフルが相良さんの口の中に消えていく。何度か口を動かしてから相良さんがうん、とうなづいた。 「おいしいね」  僕は「そうですね」と呟くと、残りのキャラメルワッフルを黙々と食べ進めた。あーんなんて、したことない。しかも、こんな公共の場で……。今、きっと顔赤いんだろうな。僕の顔はすぐに熱を持ってしまうから。この体質直したい。

ともだちにシェアしよう!