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第92話

 自分で言って、自分で傷ついている。親はどうしてこんな名前を僕に付けたんだろう。僕だったら男の子にこんな名前は付けない。 「僕……中学の頃両親が離婚して、母親に引き取られたんです。母親には彼氏がいて……そいつが言ったんです。名前も顔も身体も女の子みたいだねって。その人にとっては好きな人の子どもだから褒めてるつもりかもしれないけど、僕はすごく悲しくて悔しくて……たまらなかったんです。僕に名前を付けたのは本当の父親でした。今は音信不通で居場所も分からないので聞けないですけど……どうしてこんな名前にしたんだろうって。子どもの将来をちゃんと考えたのかなって問いただしたくなるんです。こんな名前じゃなかったら、あんなに悲しい思いをしなくてすんだかもしれないから……」  だめだ。この話をすると感情的になって、一方的に喋りすぎてしまう。僕は体育座りの姿勢になって、顔を伏せた。  相良さんきっと困ってるだろうな。 「李子」  名前、呼ばれた。僕は顔を上げていいか迷う。 「李子」  もう1度、名前を呼ばれる。僕はゆっくりと顔を上げた。 「李子……話してくれてありがとう」  ふわ、と包まれる身体。相良さんにめいっぱい抱きしめられる。髪の毛に、キス。 「辛かったんだね。苦しかったんだね。李子が電話相談員の仕事をしてる理由。俺はわかるよ。誰かに話したかったんだよね。話を聞いて欲しかったんだよね。君は優しい子だから、自分がされたいことは人にもやるんだ」  ああ、だめだ。また、視界が霞んでいく。頬を伝う何かの正体は嫌というほど知っている。

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