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第93話
「誰よりも先ず、きみが話を聞いて欲しかったんだよね。人に優しくされたいから、優しくしてきたんだよね、えらいね。頑張ったね。もうむりしなくていいんだよ。いい子でいなくてもいいんだよ。これからはいっぱいわがままいっていいよ。 俺が全部叶えてあげるから」
ぎゅっと抱きしめてくれる腕の力強さが。相良さんのお日様みたいないい匂いが僕の身体に染み込んでいく。
「っふ……ぅう……ぁああ」
相良さんの腕の中で、わんわんと泣く。嗚咽としゃっくりが止まらない。今までずっと言えなかったことを代弁してもらったような気がして、胸が詰まる。
僕が泣き止んだのはたっぷり20分かけてからだった。ああ、相良さんのスウェット僕の涙と鼻水でぐしょぐしょだ。謝らなきゃ……。そう思って顔を上げたとき。
「りーこーくん」
視界が一面真っ白になった。何かで鼻をつままれている。ふわふわで柔らかな何か。それはだんだんと丸い輪郭を帯びてきて……。
「李子くんに会いに来たよ。だからもう、泣かないで」
僕の手のひらに渡されたのは、真っ白で目がくりんとしているあざらしのあかちゃんのぬいぐるみ。え、どうしてーー? 僕は驚いて涙が引っ込んだ。
「李子くんに似合うと思って……買ってみたんだ。……どう、かな?」
相良さん、緊張してる? 僕は信じられない気持ちで相良さんとぬいぐるみを交互に見る。僕のために……買ってくれたんだ。サプライズで何かをもらうことも、もちろん初めてだ。こんなに嬉しいんだ……。
「ありがとうございます。とっても嬉しい。すごく、かわいい……」
ぎゅっと胸の中で抱きしめる。それを見て相良さんはほっと肩を下ろした。ティッシュを持ってきて、僕に手渡してくれる。
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