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第103話
「え?」
志麻さんの瞳を見て言葉が出なかった。ぞく、と背筋が冷える。軽蔑するような瞳。なんで、さっきまであんなに楽しく喋っていたはずなのに。
「雛瀬くんがいい子だから言ってあげてるんだよ。優希に溺れちゃだめだ。きっと、後悔する」
氷のような視線。でも、どこか僕を心配するような瞳。僕はなんて答えたらいいかわからず、口を閉じてしまう。
「優希は……良い奴だけど、だめだよ。雛瀬くんは辛い思いしたくないでしょう?」
諭すような声。なんで。どうして。僕の頭の中はひどく混乱していた。相良さんの何がだめなの? あんなに優しくて、かっこよくて、良い人なのに……。
「李子くん。帰ろうか」
相良さんが戻ってきた。今の話は聞かれてはいないようで、まずは安心する。僕は志麻さんの様子を盗み見た。すると彼は朗らかないつもの態度に戻っていた。
「優希。ありがとう。こんなにかわいい子を紹介してくれて」
「志麻に紹介したわけじゃないよ」
2人は冗談を言い合って笑っている。僕は2人の会話に入れずに黙ってしまう。志麻さん……さっきのあれはどういう意味なんだろう。僕は胸につかえがかかったように、心がざわめく。
「ありがとうございました。雛瀬くんも、またね」
僕にだけ送った牽制するような視線。相良さんは気づいてないみたいだけど、僕には伝わっていた。僕はせっかく髪色を変えて気分が上がっていたのに、だんだんと頭の中が志麻さんの言葉でいっぱいになっていく。だめだ。深く考えちゃダメだ。僕の悪い癖……何事も後ろ向きに捉えてしまう。さっきのことは忘れて、相良さんと楽しい話をしよう。そう思って、相良さんに声をかけた。前々から言ってみようと思ったことを口にして。
「相良さん……あの、僕の家に来ませんか?」
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