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第104話

「雛瀬くんの家?」  勇気を振り絞って言ってみる。 「僕、今まで1度も他の人を家にあげたことなくて……相良さんとなら、家で楽しく過ごせるかなって思って。その、いつもお邪魔しているのも悪いから……だから……来て、くれますか?」  最後のほうはしりすぼみになってしまった。相良さんに聞こえたかな。僕はおそるおそる相良さんの反応を見る。 「誘ってくれて嬉しいよ。じゃあ、行こうか」  相良さんが笑ってくれる。それだけで、僕は嬉しい。僕は相良さんが差し出してくれた手を握りしめる。かたく、強く。いつまでも2人でいられるように。いつまでも2人だけの世界でいられるように。 「狭いですけど……どうぞ」  来客用のスリッパなんてないから、相良さんには申し訳ないけど靴下で上がってもらう。相良さんは靴を揃えて僕の部屋に上がった。 「……この部屋、李子くんの匂いがする」 「そう、ですかね」  相良さんはくん、と僕の首筋をかいだ。 「やっぱり……李子くんの匂いだよ」  僕は汗かいてないかなと心配になる。エアコンを付けて、相良さんには座布団の上に座ってもらう。僕は和風な家具が好きで、部屋も畳の場所が6畳ある。そこに平机を置いて、座布団に座って映画を見たりするのだ。 「ありがとう」  相良さんに水出しで作っておいた麦茶を差し出す。こんなものしか出せないけど……口に合うかな。僕は出した後から後悔の念に襲われた。相良さんがこんな安い麦茶を美味しいだなんて思うはずがない。僕はいたたまれなくなって、机の下で両手を握りしめる。すると相良さんはぐびぐびと麦茶を飲み干した。 「ありがとう。喉乾いてたから助かるよ」  そうだったんだ。それならよかった。エアコンの風が僕らに当たる。スーッとした冷気が心地いい。

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