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第111話 好きの伝え方を教えて
「雛瀬先輩!? どうしましたっ?」
出勤して早々、金森さんのすっとんきょうな声がフロアに響いた。金森さんが僕の髪の毛を凝視する。そりゃ、こういう反応になるよね。他の社員たちもちらちら僕を見ている。派手な髪の人は珍しくないはずなんだけどな……影が薄い僕がするから、目立つのかな。
「っかわいい〜」
金森もりさんきゃっきゃっとはしゃいでいる。僕は褒められたことを素直に受け止める。金森さんの言葉なら信じられる気がした。
「ありがとう。ちょっと、イメチェンしてみたくてさ」
金森さんはうんうんと大きく頷く。
「とっても似合ってます! 雛瀬先輩は黒も似合うけど、ピンクも似合いますね。肌がマシュマロみたいに白いからかな〜。あ〜羨ましいです」
そう言って僕の髪を前から横から後ろから。様々な角度で見てくる。ちょっと……いや、かなり恥ずかしい。フロアにいる全員の視線が僕に集まっている。そんな気がして、僕はシャツの袖を握る。
「いや〜眼福ですよ〜。朝からごちそうさまです」
ぱん、と金森さんが両手を合わせてウインクする。こういう何気ない仕草も可愛らしい。ああ、なんとなく他の男性社員からの怖い視線。金森さんは職場の男性社員からモテるから……。僕は「ありがとう」と金森さんに伝えると、そそくさと自分の席に戻っていく。
本日1件目の電話が鳴る。僕は唇を湿らせてから受話器をとった。
「もしもし。ひだまり相談室の雛瀬です」
「……」
あれ。電話の不調かな? 向こうからの音が入ってこない。僕はもう一度声をかける。
「もしもし、あの、聞こえてますか?」
「……ぐす」
あ、れ。泣いてる? 電話の向こうにいる人は鼻をぐすぐすとさせて無言でいる。
「あの、ご都合が悪ければまたかけてくださーー」
言いきる前にその人が叫んだ。
「ま、待って! 大丈夫です。ちゃんと話せますからっ」
若い女の子の声のような気がする。僕は相手を落ち着かせるために、ゆっくりと話しかける。
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