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第112話

「まず、深呼吸しましょうか。僕に合わせて、はい息を吸って3秒……いち、に、さん。吐いて……いち、に、さん。少し、落ち着きましたか?」  僕の指示通り女の子は息を吸ったり吐いたりしている。彼女は涙声で返事をしてくれた。 「ありがとうございます。ちょっと、落ち着きました」 「今日はどうしましたか?」  女の子は一気にまくし立てるように話しだした。 「彼氏が私のこと信じてくれなくて……いつも好きだって伝えてキスだってえっちだって頑張ってるのに、本当に俺のこと好きなのかわからないって言ってくるんです。ちゃんと好きだって行動でも示してるのに、伝わらなくて……それで昨日彼氏が浮気してることがわかって、別れました」  電話の向こうで、はぁはぁという荒い息遣いが聞こえる。よっぽど興奮してしまっているらしい。僕は宥めるように声をかける。 「大変でしたね……僕にできることは何かありますか?」 「……なんだろ……泣きながら相談できるところ探してたらここが見つかったから、勢いでかけちゃったけど……。お兄さんは私に会うこともできないから話を聞くことしかできないよね」  そうなのだ。僕達は仕事上、相談をしてきた人と直接会うことはできない。それが職場のルールだから。 「そうだね……僕はあなたに直接会って何かをすることはできないけど、この電話で繋がれるから。愚痴でもなんでもいいよ。よかったら話してみてね……いつでも聞くから」  「……じゃあ」と彼女が小さく呟いたのを僕は聞き逃さなかった。 「私の行動のどこが間違ってたのか、一緒に分析してくれる? 今度誰かと付き合うときはこういう結果にならないようにしたいから……」

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