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第113話

「いいよ」  彼女は一呼吸置いてから話を始めた。 「私、口下手だから好きとか愛してるとか言うのがすごく苦手で……。自分なりにメールとか、電話とか……デートの後には直接伝えるようにしてたの。あんまり好き好き言いすぎると重いって思われるかなと思って、1週間に1回くらい言ってた。でも、彼氏からすると毎日、1日何回も言って欲しかったらしくて……私はそんなにたくさん言うのは抵抗があったから、お互いの理想が違ったんだよね。それで向こうが見切りつけて新しい女見つけて……逃げられちゃった」  話していくうちに彼女の声のトーンが落ちていく。きっと今すごく辛い思いをしているはずだ。僕はなるべく彼女の気持ちに寄り添うような言葉をかけようと思った。 「すごく彼氏のことを想ってたんだね。その彼氏、僕が引っぱたいてもいい? こんなに自分のことを想ってくれる女の子を手放すなんて……。その人、もったいないことしてるよ」  そう言うと、僕の言葉にツボったのか女の子はからからと笑う。笑った声が高くて、聞いていて明るくなれる。 「引っぱたいていいよ。もうどうでもいいもん。あんなやつ。あー。なんか、ちょっとすっきりしたかも……お兄さんありがとね」 「ううん。僕はただ話を聞くことしか出来ないから……。また困ったり嫌なことがあって話を聞いて欲しくなったら電話かけてよ」 「うん。雛瀬さん、だっけ。ありがとね。また、電話しちゃうかもしれない。そのときはよろしくね」 「うん。待ってるよ」 「じゃあ、またね」  女の子の声はもう涙声じゃなかったから。僕は安心して「またね」と言って電話を切ることができた。  電話をかけ終わったときに、ふと胸に浮かんだのは相良さんのこと。僕はちゃんと相良さんに自分の気持ちを伝えられているだろうか。言葉でも、行動でも。考えたらだんだんと不安が込み上げてきた。この間、僕の家では自分からキスができた。でもあれは勢いがあったからであって、平常心のときには出来るだろうか。わからない……。けど、やっぱり口にしなきゃ伝わらないだろうから。さっきの女の子みたいな結末は悲しい。僕は今度相良さんに会うときは、『好きの伝え方』を教えてもらうと心に誓った。

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