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第114話

 あれ……あの車、見覚えがあるような……。僕は会社のエレベーターから外の景色を眺めていた。うちの会社が入っているビルのエレベーターは外の景色が一望できるように透明なガラスでできている。地上に近づくにつれて、それが僕の思い込みではないことがわかった。あれって、もしかしてーー。僕は早足で車の近くに向かう。車に背を預けて立っている長身のシルエットがむくりとこちらを見た。 「李子くんお疲れ様」 「相良、さん? 何でーー」  僕の言葉は相良さんに遮られる。 「会いたくなったから……。こんな理由じゃだめ?」  ううん。だめなんかじゃない。すごく、嬉しい。僕はふるふると首を横に振る。 「乗って。話は中でしよう」  相良さんのエスコート付きで助手席に乗り込む。相良さんは車を発進させると、僕に話しかけてきた。 「今日は李子くんに見せたいものがあるんだ」 「……わかりました」  どうしよう。びっくりしてしまって頭が回らない。相良さんが迎えに来てくれた。それだけで胸がいっぱいになるのに。僕に見せたいものがあるって、そんな……。なんでそんなに嬉しいことを、この人はいつも僕にしてくれるんだろう。Domとしての気質? 相良さんの持っている優しさ?  もくもくと考えていたら、赤信号になった瞬間、相良さんに手を取られた。きゅ、と恋人繋ぎにしてくれる。視線は前方を眺めていて、でも手だけは僕を掴んで離さない。僕はきゅ、と力を込めて握り返す。すると、相良さんはぴくりと眉を動かすと僕の手をさらに強く握ってくれた。

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