115 / 276

第115話

 相良さんに連れられてきたのは、目の前の海が一望できるホテル。ここ、三ツ星ホテルって聞いたことある。テレビでもよく紹介されるホテルだ。1ヶ月は予約待ちすると聞いていたけど。僕のために前もって予約しておいてくれたんだろうか。そう思うと色んな気持ちが胸からこみあげてきて、僕は相良さんの背中に抱きつきたくなった。でも、ここはホテルの中にあるバーだから。そんなことはできない。ところどころで談笑する声が聞こえる。町の丘とは雰囲気が違って、こちらはなんというか……リッチな感じがする。バーテンダーさんが5、6人いてお酒を提供しているし、ウェイターさんも3人いる。ガラス張りの窓からは水平線の奥に浮かぶ船が見えた。その淡いオレンジ色の光がゆらゆらと光る。僕と相良さんはL字型の白と紫のストライプ柄が入ったソファに座っていた。 「どうしたの? さっきからそわそわしてる」  相良さんがグラスを傾けながら僕に聞く。僕はちょっと遠慮気味に口を開いた。 「僕には場違いっていうか……敷居が高いというか」 「そんなことないよ。俺だって今日は軽装だし」  「ほらね」と相良さんが自分の履いているパンツを指さす。灰色と黒のチェック柄。上はゆったりとした白のワンポイントTシャツで、胸元についているのはうさぎのマーク。これ、たしか有名な海外ブランドのマークだ。Tシャツ1枚で何十万もするとかいう……。それって、軽装って言わないんじゃないかな。そんな疑問をお酒と共に飲み干した。今飲んでいるのは、ノンアルコールカクテルだ。お酒を飲むといい気分になるけど、相良さんとは素で話したい。 「クラッカーでももらおうか」  相良さんが指を上げてウェイターを呼ぶ。床に跪いたウェイターさんから、クラッカーの載せられたお皿を受け取った。ソファの前にあるガラス張りのテーブルの上に置く。僕は手を伸ばしてクラッカーを口に含んだ。塩っ気があってお酒が進む。僕はノンアルコールだけど……。相良さんもクラッカーを気に入ったらしく1度に3枚も頬張っていた。相良さんはビールを美味しそうに飲んでいる。今日は朝からシカゴにある本社と会議があったらしく、だいぶ疲れていると聞いている。そんなに大変な日だったのに、僕を誘ってくれるなんて……なんて優しい人なんだろう。

ともだちにシェアしよう!