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第117話

 ピッと僕の斜め前で機械音が鳴った。僕は背中を押されて足を進める。 「右足上げて……そう。次は左足」  相良さんは僕の靴を脱がしているらしい。ということは、ここは室内?  「こっちだよ。……足元段差あるから気をつけて」  相良さんの注意を聞いて、僕はゆっくりと足を上げる。あれ、でも足の高さは変わらなくて。僕の右足はすかすかと空中を舞う。くす、と相良さんの笑い声が頭の後ろで聞こえた。 「ごめん。今の嘘。李子くんを困らせたかった。そのまま歩いて大丈夫だよ」  僕は内心むっとむくれてしまう。相良さん意地悪だ……。10歩ほど進んでから相良さんの手が離れた。僕は目的地に着いたんだと思って、目元に巻かれたネクタイを外そうと手をかけた。 「|kneel《おすわり》」 「っ」  相良さんのCommandが耳の奥で響く。 「だめだよ。勝手に外そうとしちゃ」  斜め前からの声を耳で追う。相良さんは僕の近くを円を描くように歩いているらしく、あちらこちらから声が聞こえた。 「今、李子くんは視界を奪われた。だから、異常に聴覚が発達してる」  今度は後ろから相良さんの声がする。 「振り向かないで。前を向いたまま……今から5分間、声を出したらだめだよ」  すっ、と相良さんの気配が遠のくのを感じた。声を出したらだめ。その言葉が僕の体を支配する。 「っ」  じゅ、と耳に触れる熱。僕は口元に手を被せて震えた。相良さんは僕の耳たぶを甘噛みしている。舌先をすぼめて、僕の右耳に侵入した。なに、これ。耳の中熱くて……。何よりもじゅ、じゅと鳴る音が恥ずかしい。水音が鼓膜で響く。奥深くまで、僕の体の1番深くまで届く。相良さんは何も言わない。無言で僕の耳を吸う。ぱちん、と僕の着ているシャツのボタンが外れる。胸元に相良さんの手がまわって、静かに服を脱がされていく。

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