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第122話

 相良さんに髪の毛を洗ってもらい、体も清めてもらう。その手つきはけしていやらしいものではなかったけれど、僕は体が火照らないよう平常心を保とうとした。 「先に入ってて」  相良さんにすすめられて、先にバスタブに入る。白い泡が沸き立つそこは、いつものお風呂と違って新鮮だった。相良さんが髪の毛を洗っている姿を後ろから見つめる。姿勢よくシャワーを浴びている彼が、ただ体を清めているという行為なのに、美しく感じるのはなぜなんだろう。綺麗に整った輪郭。体幹の強さが見て取れる体つき。  ちゃぷん、とお風呂のお湯が揺れる。相良さんが入ってきたから。僕の背中に相良さんの胸があたる。とくとくとくと胸打つ相良さんの振動が心地いい。 「今日は頑張ったね」  相良さんが僕の肩にキスを落とす。僕は相良さんの顔を見上げた。 「そんな李子くんにはご褒美をあげなきゃね」  ちょっと意地悪そうな瞳。僕は相良さんの動きをぼんやりと眺めていた。相良さんがバスタブの縁に飾ってある瓶を持ち上げる。肩にかかる、冷たい飛沫。 「バーだとノンアルコールしか飲んでなかったでしょ」  たらたらたら。肩にかけられる液体は琥珀色をしていた。ふわりと沸き立つアルコールの匂い。鼻先を掠めて頭の奥をジンと揺らす。相良さんはシャンパンの入った瓶を僕の体に傾けていた。僕は体にシャンパンをかけられていた。 「こんな……もったいないです」  僕は相良さんの手を掴もうとする。すると、するりと逃げられてしまって。 「じゃあ飲んで」  相良さんが僕の顔にシャンパンをかけてくる。しゅわしゅわとする液体。浴びせられる冷たい感覚。僕は口を開いてシャンパンを飲み始める。こぽこぽこぽ。口の中がグラスの役割をする。こんな、飲みきれない。僕はこほ、と咳き込んでシャンパンをお湯に吐き出してしまう。それでも相良さんはシャンパンを僕の胸や背中にかけてくる。最後の1滴を僕の鼻先に落とすとやっと瓶をバスタブの縁に置いてくれた。

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