122 / 276
第122話
相良さんに髪の毛を洗ってもらい、体も清めてもらう。その手つきはけしていやらしいものではなかったけれど、僕は体が火照らないよう平常心を保とうとした。
「先に入ってて」
相良さんにすすめられて、先にバスタブに入る。白い泡が沸き立つそこは、いつものお風呂と違って新鮮だった。相良さんが髪の毛を洗っている姿を後ろから見つめる。姿勢よくシャワーを浴びている彼が、ただ体を清めているという行為なのに、美しく感じるのはなぜなんだろう。綺麗に整った輪郭。体幹の強さが見て取れる体つき。
ちゃぷん、とお風呂のお湯が揺れる。相良さんが入ってきたから。僕の背中に相良さんの胸があたる。とくとくとくと胸打つ相良さんの振動が心地いい。
「今日は頑張ったね」
相良さんが僕の肩にキスを落とす。僕は相良さんの顔を見上げた。
「そんな李子くんにはご褒美をあげなきゃね」
ちょっと意地悪そうな瞳。僕は相良さんの動きをぼんやりと眺めていた。相良さんがバスタブの縁に飾ってある瓶を持ち上げる。肩にかかる、冷たい飛沫。
「バーだとノンアルコールしか飲んでなかったでしょ」
たらたらたら。肩にかけられる液体は琥珀色をしていた。ふわりと沸き立つアルコールの匂い。鼻先を掠めて頭の奥をジンと揺らす。相良さんはシャンパンの入った瓶を僕の体に傾けていた。僕は体にシャンパンをかけられていた。
「こんな……もったいないです」
僕は相良さんの手を掴もうとする。すると、するりと逃げられてしまって。
「じゃあ飲んで」
相良さんが僕の顔にシャンパンをかけてくる。しゅわしゅわとする液体。浴びせられる冷たい感覚。僕は口を開いてシャンパンを飲み始める。こぽこぽこぽ。口の中がグラスの役割をする。こんな、飲みきれない。僕はこほ、と咳き込んでシャンパンをお湯に吐き出してしまう。それでも相良さんはシャンパンを僕の胸や背中にかけてくる。最後の1滴を僕の鼻先に落とすとやっと瓶をバスタブの縁に置いてくれた。
ともだちにシェアしよう!