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第133話
持っていた容器を取られて、ローテーブルの上に載せられてしまう。まだ、全部食べてないのに……。そう思いつつも、頭は目の前の相良さんのことでいっぱいになる。凛々しい瞳。手入れの行き届いた形の良い眉。瞳の奥は、少し揺れている。
相良さんが僕の肩に手を置いて抱き寄せてくれる。相良さんの胸に僕の耳があたる。どくんどくんといういつもより速い相良さんの心臓の音。
「ごめん……ちょっと今、考え中」
相良さんの顔を見上げると、目を伏せている。
「……何を?」
と、僕は聞いた。
「このまま押し倒したい。でも、李子くんを怖がらせたくないから、どうするか迷ってる」
舞い上がってしまいそうなほどストレートな言葉をかけられ、僕はかっと体の熱が上がるのを感じた。ついさっきまで牛丼を食べて何気ない話をしていたはずなのに。
「李子くんは、どうされたい?」
「っ」
相良さんの瞳の奥がゆらゆらと揺れている。僕は自分の心に問うた。僕は、どうされたい? 答えはすぐに出た。
「……相良さんの好きにしてください」
僕の肩を握る相良さんの手に力が入った。そのまま無言で相良さんに抱っこされる。そのまま廊下を渡って、たどり着いたのは洗面所。相良さんは戸棚から新しい歯ブラシを取り出すと、正座をして僕の頭をそこに寝かせた。相良さんに膝枕されてる……その事実に顔を赤らめていると、相良さんがふっと笑うから。
「お口あけて」
「……はい」
言われた通りに口を開ける。ピンク色の柄の歯ブラシが奥歯の上を擦り始める。しゅこしゅこしゅこしゅこ。まだ硬い毛束の先が、僕の歯にあたる。下の歯から、上の歯に。丁寧にブラシで磨かれていく。僕は静かに両手をお腹の上で合わせて上を向いていた。相良さんすごく優しそうな顔で歯を磨いてくれてる……。こういうの、いいな。恋人同士。僕と相良さんはしあわせなmateにちがいない。僕の頭はそれでいっぱいになっていたから。相良さんの手の動きが変わったことに気づいたのは、そのあとだった。
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