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第136話
「雛瀬ー。持久走の結果が出たぞ」
相良さん。口調が別人みたい。本当に教師になりきってるんだ。黒髪をワックスで左右に分けている。爽やかそうな男性教師。それが、僕の印象だ。僕も相良さんに合わせるように、中学生、高校生っぽく答えようと努力する。
「相良、先生。おはようございます」
先生に会ったらまずは挨拶からだよね。高校生の頃、学年主任から厳しく指導されたことを思い出す。背筋をしゃんとして相良さんに向き合った。
「おはようさん。お前かなり頑張ったんだなあ。他の先生たちも褒めてたぞ」
「あ、ありがとうございます」
そういう設定なんだ。僕は相良さんの言葉に噛み合うように言葉を続ける。
「そんな雛瀬にはご褒美あげないとな」
ぐっと、相良さんとの距離が縮まる。相良さんが1歩詰めてきたから。僕は2、3歩後ろに下がった。でも、それ以上下がろうとしたらそこには壁があってーー。
とん、と相良さんが両腕を壁につけた。囲われるような形に僕は逃げられないのだと悟る。
「雛瀬ーー」
僕はいつもと雰囲気が違う相良さんから目を離すことができなくなっていて。目を開いたまま、口付けを受けた。
熱を孕む視線に身体が燃えそうになる。すごい、見られてる……。相良さんは角度を変えて何度も啄むようなキスを落としてくる。僕はそれに答えようと必死で上を向いた。僕の身長が低いから、相良さんはだいぶ背中を丸めてキスしてくれている。そんな優しさが胸を包み込んでくれる。
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