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第141話

 カシャ、と乾いた音。見れば相良さんがスマホを僕に傾けていた。 「ごめん。かわいかったから、つい」  はにかみながら謝る相良さんを見て、まぁ相良さんならいっかと考える。そして、スマホの画面を見せられた。 「ね。すごくご機嫌李子くん」 「あ……」  たしかに。と頷いてしまう。写真の中の僕はほっぺたを緩ませて笑っていた。僕、普段こんな顔で笑ってるんだ……他人から見える自分の姿を見せられのはかなり恥ずかしい。しかし、僕の視線はローテーブルの上に置かれた別の牛乳瓶に向く。 「……食べてもいいよ」  相良さん。すごく笑いを耐えてるみたい。僕はやったぁと内心大喜びで、ライトグリーンの色の瓶をとった。1口食べてみる。これは……メロンソーダ? ソーダ好きの僕はたまらなくなって、くぅぅっと心の中でガッツポーズをとる。夢中で食べてしまったからたちまち瓶は空っぽに。僕は膨らんだお腹を撫でながらスプーンをテーブルの上に置いた。 「じゃあ、今度は俺の番」  あ、と相良さんが口を開く。紅く肉厚な舌がのぞいた。僕は何をお願いされているのかわかるから、ローテーブルに残った最後の牛乳瓶に手をつける。黄色い色をしたプリンを掬いとる。相良さんにゆっくりとスプーンを差し出した。いつか、水族館で見たときと同じ光景。あのときと違って、僕ら2人しかこの場にはいないから。不思議と恥ずかしさはなくて。相良さんの口の中にプリンが吸い込まれていく。上品な食べ方だと、僕は思った。 「ん。やっぱり、普通のカスタード味もおいしいね」  2口目、また口を開いて待っている。なんだか、親鳥から餌を貰う雛みたい。いや、雛は僕の方か。相良さんからは与えられてばかりだ。いつか僕からお返しができたらいいな……。

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