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第147話

「その姿勢のまま。俺のこと見て」  相良さんの言葉の意味を掴みかねる。僕は目の前に立っている相良さんのことを見上げる。首を反らして。この姿勢は生易しいものではないけど、こうしないと相良さんの顔が見えないから。 「……」 「……」  なんにも、言わない。相良さん。どうしてしまったんだろう。彼の表情は、天井のライトの逆光のせいでよく見えない。だから、不安になる。いつもと、なにかがちがう。緊迫した空気に、呼吸の仕方を忘れそうになる。 「李子」  どきん、と心臓が震えた。それが、身体の節々に走る。なまえ、下の名前。呼ばれるのは、水族館に行った後のとき以来だ。あのとき、僕は泣いてしまったんだっけ。あたたかい記憶を辿っていると、相良さんの手が僕の前髪を梳く。 「どうしてそんなにかわいいの」  相良さんの声が幼い。素直な疑問を吐き出しているように聞こえる。僕は、相良さんからかわいいと言われてつい視線を反らしてしまう。それが、いけなかったのかな。 「look《こっち見て》」  僕の意志と関係なく、勢いよく首が揺れる。相良さんのことを再度見つめた。Commandを出すときの声、低かった。怒らせた? 僕が目をそらしたから。 「言うこと聞けない子には、ちゃんと教えてあげなくちゃね」  相良さんが僕の肩を押す。とん。僕の身体は絨毯の上に落ちた。決して強い力ではなかった。でも、弾き出すような動きが悲しかった。はねつけられたように感じたから。  

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