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第149話
「痛い?」
問いかけてくる瞳の奥が心細そうに細かく震えている。僕はうんともすんとも言えない。これが現実に起きていることなのか、受け止めきれていないから。
言ってしまおうか。相良さんに、痛いと。でも、そんなことを言ったら相良さんに嫌われはしないだろうか。ここは嘘でも痛くないですと言うべきだろうか。
じっ、と。探るような目つき。相良さんは僕の答えを待っている。どうしよう。なんて言ったら正解なんだろう。なにを言ったら、相良さんが喜ぶだろう。
「大丈夫です」
嘘じゃない。このくらいなら、平気。大丈夫。間違ったことは言ってない。
そう言うと相良さんは少し動きを止めてから。
「そう」
息をゆっくりと吐いて、僕のほっぺたを両手で包み込んでくれる。その手は、おずおずとしていて、なんだかいつもの自信に満ち溢れている彼ではない。どこか、弱くて、脆くて。そんな相良さんの一面を見るのは初めてだから、心がきゅうとせばまる。
「好きだよ」
柔らかく垂れる目尻のしわ。何度も何度も見てきた。そのしわが、僕は大好き。好きだと教えてくれる唇が、僕の鎖骨に吸い付いた。浮き上がった骨の部分を何度か往復して舐められる。舌先が、熱い。
でも。次の瞬間に訪れたのは、僕にとって未知の感覚だった。
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