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第154話

「最後にひとつだけ……いいですか?」  ベッドに横になって向かい合わせ。相良さんが、手を繋いでくれる。指先が絡まり合うのが心地いい。 「いいよ」  僕は相良さんの手を固く握りしめた。想いが伝わるように。 「今日は僕のこと抱っこして寝てくれませんか?」 「……」  相良さんが動かなくなってしまった。ひらひら、と顔の前で手を振ってみるもフリーズしてしまったかのように一時停止している。  数十秒経ってから、ようやく動き出す。 「うん」  たった2文字。けれど、あたたかい。  僕は相良さんの腕の中にすっぽりとおさまる。この腕の中にいると安心する。  相良さんは、とんとんと僕の背中を撫でてくれた。僕がねむってしまうまで、ずっと。いたわるように、さするように、ほめるように。 「李子」  薄れていく意識の先、耳に響く相良さんの心音。 「ごめんね」  どうして謝るの?  相良さんの声。微かに震えてた。僕が寝てると思って、囁いたんだと思う。だから、気づいちゃだめだ。気づかないふりをしないと。  大切なものを壊さないように。  このやさしい世界が続くように。  僕は知らないふりをしよう。

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