151 / 276
第154話
「最後にひとつだけ……いいですか?」
ベッドに横になって向かい合わせ。相良さんが、手を繋いでくれる。指先が絡まり合うのが心地いい。
「いいよ」
僕は相良さんの手を固く握りしめた。想いが伝わるように。
「今日は僕のこと抱っこして寝てくれませんか?」
「……」
相良さんが動かなくなってしまった。ひらひら、と顔の前で手を振ってみるもフリーズしてしまったかのように一時停止している。
数十秒経ってから、ようやく動き出す。
「うん」
たった2文字。けれど、あたたかい。
僕は相良さんの腕の中にすっぽりとおさまる。この腕の中にいると安心する。
相良さんは、とんとんと僕の背中を撫でてくれた。僕がねむってしまうまで、ずっと。いたわるように、さするように、ほめるように。
「李子」
薄れていく意識の先、耳に響く相良さんの心音。
「ごめんね」
どうして謝るの?
相良さんの声。微かに震えてた。僕が寝てると思って、囁いたんだと思う。だから、気づいちゃだめだ。気づかないふりをしないと。
大切なものを壊さないように。
このやさしい世界が続くように。
僕は知らないふりをしよう。
ともだちにシェアしよう!