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第158話
その日の夜も僕は相良さんの家に向かった。最近はようやく1人で電車に乗ることを許してくれた。今までは強制的に車で送り迎えをされていたから。相良さんの仕事は今が繁忙期でパソコンの前から離れるのが難しいという。
だったら、今は会わない方がいいんじゃないか。そう思って提案すると、秒速で断られてしまった。
「李子くんが俺の唯一の癒しなのに。それを奪うの?」
そのときの相良さんの目力、強かったな。
そんなことを思い出しながら、玄関のチャイムを鳴らす。すぐに、扉が開いた。大好きな相良さんの匂いがいっぱい。
「ん。おつかれさま」
相良さんが僕の手を引っ張って。腕の中に包み込んでくれる。僕もその大きな背中に手を回した。僕の短い手なんかでは、相良さんの背中に腕が回りきらなくても。数分ほど、その姿勢でいた。ゆっくりと、離れていく体温。ちょっと寂しいけど、相良さんはまだ仕事中だ。
「俺はまだ部屋で仕事があるから、先にお風呂入っちゃいなよ」
「はい」
相良さんは自室に、僕は浴室へ向かう。12月に入ってからますます寒さは厳しくなり、外ではマフラーと手袋がかかせない。
熱いお湯を全身に浴びる。大きな鏡に映る自分を見た。薄い腹、華奢な肩。見れば見るほど女の子みたいだ。
相良さんはこんな僕を好きだと言ってくれる。でも、まだ繋がってはいない。それは、なぜ? 聞いてみたい。けど、答えを知りたくない。曖昧なほうがいつでも逃げられるから。臆病な僕はそれに甘えている。
自分のおしりに触れてみた。つう、と1点を撫でてみる。自分で触ったことはない。前に、相良さんが愛撫してくれた場所。ここを使うんだってことはわかってる。けど、はたして相良さんのものは僕の中におさまりきるのだろうか。自信がない。
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