160 / 276

第163話

 僕は相良さんの唇から目が離せなくなった。 「ん!?」  相良さん。がた、とローテーブルに肘をぶつける。僕がローテーブル越しに相良さんの肩を引き寄せたから。そのまま、相良さんの口を頬張った。黒蜜の甘さ、とろけそう。唇の周りにくっついているきな粉も舐めた。  相良さんは最初、僕からの突然のキスに驚いて固まっていたみたいだけど。数秒したら僕にされるがままになっていた。僕は閉じていた瞳を薄らと開いた。眼前には、目を開けたままの相良さんの姿。睫毛、長くてきれい。三日月形の瞳は、今日も黒く濡れている。  相良さんの目を見ていると、僕の世界は黒一色で染まってしまう。相良さんのことしか考えられなくなる。頭も心も全部、相良さんに囚われてしまう。  ふっ、と相良さんが笑い声を出した。控えめに、ちょっとだけ視線をローテーブルに落として。 「そういうことされるの、嬉しいからもっとやって」  相良さんが、両手の指を合わせてくるくると交差させている。相良さんが照れてるときにやる手癖。僕だけが気づいてる。 「はい。いっぱいします」  僕はもっと近づきたくて、ローテーブルを乗り越えて相良さん側に移動する。 「うん?」  相良さんの、待っていてくれる目がやさしくて好き。僕の返事や行動を微笑んで受け止めてくれる。  僕は震える声で言った。 「もっと、僕に触って欲しいです」  目をきゅっとつむって言ったから、相良さんの反応が見えなくて少し怖い。でも、耳だけはちゃんと相良さんが息を詰める音を拾っていた。

ともだちにシェアしよう!