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第165話
相良さんは王子様みたいに、僕の手の甲に口付けを落とす。
「本気で大事にする」
なんか、相良さんらしくない言葉だ。ちょっと緊張してる? 相良さんが僕の唇に指を這わせる。とん、と僕の唇に自分の人差し指を立てて重ねた。
「約束事をしようか」
「約束?」
目元がやさしい。
「俺と李子くんの間のセーフワードを決めよう」
ごくり、唾を飲み込んだ。ほんとに、ほんとに始まるんだ。mateとしての一段階先の関係が。期待と、恐れと、不安を胸に僕は相良さんを見た。
「いくつか候補は考えてあるんだけど。その中でも李子くんに合いそうなものを用意したよ。気に入ってくれるとうれしいな」
相良さんがベッドの隣のチェストの一段目から封筒を取り出す。深い緑色。僕が封を開けると、中には黒いメッセージカードが入っていた。そこには、アルファベットで白い文字が浮かび上がっていた。
【kitten 《子猫さん》】
丁寧に、英単語の意味まで書いてある。でも、発音がわからない。
「これ、どうやって読むんですか?」
「kitten《キトュン》。上手く言えなくても大丈夫だからね」
僕は小さく、キトュンと呟いてみる。英語なんて高校の授業までで終わってるから、全然わからない。
「これは、俺からのplayに耐えられなくなって、そのplayをやめたくなったら使って。遠慮しなくていいからね。これは、お互いを守るための大切な約束だから」
相良さんが僕の胸の前で小指を見せてくる。おずおずと、その小指に自身のものを絡めた。
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