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第166話
「約束」
相良さんが囁いて、2回、指を絡めて揺らす。やさしい相良さんの顔。息を止めて見ていた。大好きな笑いじわが、目元に浮かぶから。
しばらくその顔に惚けていると、相良さんが僕の肩に手を置いた。
「いい?」
なにを。と、言われなくてもわかってる。
「はい」
震える唇で呟いた。
相良さんの身体が僕に乗り上げてくる。重なり合った身体の熱が、僕にこれは現実なのだと教えてくれる。
「李子」
熱の篭った瞳が僕を射抜くようにして見下ろす。僕は、名前を呼んでくれる彼の唇をじっと見据えた。
ふに、って。相良さんの唇が僕のものに重なった。離して、触れて。それを何度か繰り返していく。そのたびに僕の身体の温度が上がっていく。それがひどく心地いい。
相良さんは目を伏せて僕に口付けを落とす。僕の後頭部を撫でてながら、もう片方の手で僕の下顎を支えてくれる。僕はもうすっかり会得した鼻で息を吸う技を使う。ふっー。ふーっ。と、僕の下手っぴな鼻息が部屋に落ちた。僕は目を薄らと開けて相良さんの表情をうかがう。
「……」
きれいだ。目も、鼻も、口も、額も。相良さんの持っているものはぜんぶ。きれいなんだ。
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